20年分のPMP試験対策をリファクタリングする・第1回
PMP試験対策の教材を作っています。正確には、作り直しています。さらに言えば、20年以上にわたって作ってきた教材、講義資料、問題、用語集、説明の断片、過去版との比較、受講者から受けた質問、そして私自身の記憶を、いったん全部広げて組み直しています。つまりこれは、リファクタリングです。
始めたときは、こんなに大規模になるとは思っていませんでした。2026年9月8日時点で、システム上の付随ファイルを除き、プロジェクト全体には6,181ファイルが存在します。総容量は約3.13GBです。いや、増えすぎです。危険です。自分でもそう思います。
いったい、何を作っているのか
ファイルの中身は、Markdown、PowerPoint、Word、PDF、画像、CSV、JSON、検査用プログラムなどです。主なものだけでも、Markdownが約2,000ファイル、PowerPointが約1,700ファイル、画像が約800ファイル、CSVが約350ファイル、検査・処理用プログラムが約280ファイル、Word文書が約230ファイル、JSONが約150ファイルあります。
もちろん、6,181ファイルすべてを受講者に見せるわけではありません。現在の教材として使うものだけでなく、制作途中のもの、確認待ちのもの、過去版として保存しているもの、比較のために残しているもの、一度は作ったものの採用しなかったものも含まれています。広い意味で現役とみなせるものは約2,000ファイルであり、残る約4,200ファイル、全体の約68%は、保管、比較、検証、旧版、廃止候補などの領域に属しています。
完成品より、その周囲にあるもののほうが多くなっています。制作とは、そういうものなのかもしれません。ただ、ここまで多くなるとは思っていませんでした。
現在使う範囲だけでも、かなりあります
現在の教育対象として整理した範囲に限ると、PowerPointは62ファイル、合計1,681スライドです。Markdownは91ファイル、約138万文字。Word文書は20ファイル、約326万文字あります。MarkdownとWordを合わせると約465万文字になり、仮に1ページ1,200文字として換算すれば、約3,870ページ分に相当します。
これは実際の印刷ページ数ではありません。図表、箇条書き、余白、重複内容もあるため、あくまで規模を把握するための目安です。それでも3,870ページです。「教材を作りました」と気軽に言える量ではなくなりました。
PowerPoint、PDF、CSVなども含めると、現行範囲から機械的に抽出できる文字情報は約988万文字に達します。さらに、重複する版、旧版、履歴、制作途中の成果物まで含めたプロジェクト全体では、抽出可能な文字情報は約1億9,000万文字、PowerPointは延べ4万6,000スライドを超えていました。
これは完成教材の分量ではありません。20年以上にわたって作り、直し、比較し、捨て、もう一度拾い上げてきた仕事の痕跡です。ああ、20年の集大成がこんなことになるとは。ここからかなり削ぎ落としたものを、皆さんにお届けします。
AIを使えば、早く終わると思っていました
生成AIを使い始めた理由の一つは、作業を早く終わらせるためでした。この期待自体は間違っていません。用語の表記確認、参照先の節番号の調査、複数資料からの関連箇所の探索、英語版と日本語版の比較、旧版と新版の差分抽出、問題文と解説の整合確認など、個々の作業は明らかに速くなりました。
こうした作業は、一つひとつはそれほど難しくありません。しかし、難しくないからこそつらいのです。数百、数千と続けば集中力が落ち、見落としが増えます。確認し直して、また見落とします。AIはこの種の反復作業を嫌がりません。同じ検査を何度頼んでも、少なくとも嫌な顔はしません。これは本当に助かります。
苦痛はかなり減りました。しかし、仕事は終わりませんでした。むしろ増えました。
楽になったので、諦めなくなりました
以前なら、疑問を感じても時間の都合で諦めていたことがあります。この説明は旧版ではどう書かれていたのか。英語版と日本語版で意味が変わっていないか。その理論は誰が、どの論文で提案したのか。PMBOK®ガイドから消えた知識は、本当に不要になったのか。現在は入手しにくい文献にしか書かれていないものの、PMP試験との関係を無視できない知識をどう扱うべきか。
以前から気にはなっていました。ただ、教材には締切があり、講義も受講者対応も会社の仕事もあります。すべてを調べることはできず、どこかで区切るしかありませんでした。
生成AIは、その区切りを先へ押しやりました。調査に一日かかっていたものが数時間になり、数時間かかっていた比較が数十分になります。大量のファイルから候補箇所を探す作業も、人間だけで行うよりはるかに速くなりました。すると、調べられます。調べられるなら、ついうっかり調べてしまいます。そして、分かってしまった問題を、そのままにはできません。
さらに、一つの説明を直すと、別の教材との不整合が見つかります。辞書を更新し、参照規則を作り、検査器を追加して、もう一度全体を確認します。AIが仕事を増やしたのではありません。AIによって、私が諦めなくなったのです。
作ったけれど、やめたもの
今回、かなりの量を作り、かなりの量をやめました。説明の構成を変更したため使わなくなった文書、全体方針と合わず保留した問題、品質基準を満たせず作り直した図、別の教材と役割が重なっていた資料、制作途中で設計そのものが違うと気づいたものがあります。数え始めるときりがありません。
無駄だったとは思いません。作ってみなければ、何が違うのか分かりませんでした。比較したからこそ、採用しないと判断できました。失敗したから新しい基準が生まれました。ただし、ファイル数だけを見て「これだけ作った」と誇る気持ちにもなれません。どちらかといえば、自分に呆れています。採用しなかったもの、修正前のもの、検査用の複製も含まれているからです。
それでも、それらは判断の履歴です。なぜ採用しなかったのか。どこに問題があり、何を直したのか。それを残しておけば、同じ失敗を繰り返さずに済むかもしれません。今回は、削除してきれいにするより、検証できるよう残しておくことを選びました。その結果が6,181ファイルです。やはり多いです。
ちなみに、成果物はソフトウェア開発で使われるGitで履歴管理しています。Gitを導入しなければならない資料作成とは、いったい何なのでしょうか。
教材の外側が大きくなりました
制作を進めるうちに、教材本文以外のものが急速に増えました。用語辞書、略語一覧、出典台帳、参照表記の規則、ファイル命名規則、問題番号の管理表、検査結果、修正履歴。さらにQC、QA、そしてQAを確認するためのメタQAまであります。教材を正しく作るための仕組みが、教材と同じくらい大きくなっています。
例えば「PM」という二文字があります。プロジェクトマネジメントなのか、プロジェクトマネジャーなのか、プロダクトマネジメントなのか、プロダクトマネジャーなのか。人間なら文脈で分かると言いたいところですが、分からない場合もあります。すべてをPjMとPdMに分ければよいわけでもありません。英語、日本語、一般的な略語、組織固有の用法が重なるためです。このあたりは、何度も試行錯誤を繰り返しています。
節番号も同じです。「PMBOKガイドの§3.1」と書いてあっても、ガイド部分の§3.1なのか、併載された標準の§3.1なのか分からないことがあります。ページ番号についても、PDFファイルの先頭から数えたページなのか、紙面に表示されたページ番号なのかを決めなければなりません。
たった二文字、たった一つの節番号でも、全体で整合を取ろうとすればルールが必要になります。辞書にし、規則にし、検査します。そうしなければ、この規模では維持できません。なにしろ、一つの方針変更が、数百箇所の修正に及ぶのですから。
これは、もはや教材制作だけではありません
リファクタリングとは、外から見える役割を大きく変えずに、内部の構造を整理し、理解しやすく、変更しやすく、不具合を生みにくい形へ作り直すことです。今回の作業も、それに近いものです。
新しい文章を追加するだけではありません。過去の説明を分解し、現在も有効なものを選び、原典との関係を確認します。翻訳によって意味が変わっていないかを調べ、異なる教材間で矛盾しないように組み直します。そして、これまで私の頭の中にしかなかった判断を、辞書や規則として外へ出します。
これは暗黙知の明示化です。20年分の知識体系の再構築でもあります。
少し大げさに聞こえるかもしれません。しかし、6,181ファイルを前にすると、もうそう呼ぶしかありません。
完成したとは思っていません
ここまで作ったのですから、そろそろ完成と言ってもよいのではないか。そう思うこともあります。ですが、完成したとは考えていません。
悲観しているわけではありません。いつまでも公開しないという意味でもありません。専門知識を扱う以上、「これで完全に正しい」と思い込まないほうがよいと考えているだけです。
PMBOKガイドも変わります。試験も実務も変わります。外部の研究も更新されます。私の理解が誤っている可能性もあります。AIも間違えますし、人間も間違えます。だから、間違いが見つかったときに修正できる構造にしておきます。どの説明がどの出典に基づき、どの検査を通り、何が未確認で、どこに疑問が残っているのかを追跡できるようにします。
目指しているのは、二度と変更する必要のない完成品ではありません。更新可能な知識体系です。
生成AIを使えば、教材制作は早く終わると思っていました。確かに、一つひとつの作業は速くなりました。苦痛も減りました。年齢とともに負担を感じるようになった機械的な確認を、何度でも手伝ってもらえます。ありがたいことです。
2003年に最初のPMP試験対策教材を作ってから、23年がたちました。そろそろ老人にはつらい作業なのです。目がつらいのです。
しかし、楽になった分だけ、以前なら諦めていた問題へ手を伸ばしました。調べ、比較し、作り直しました。その結果、教材制作は終わらなくなりました。
まあ、仕方がありません。20年以上、気になっていたのですから。
次回は、この規模の文章をどのように検査しているのか、そして、なぜAIを使っても大規模なQAは難しいのかについて書きます。

