【ビジネスアーキテクチャー入門 #1】すべてのビジネスには「共通の骨格」がある ~飲食店で学ぶビジネス・ケイパビリティ~

野村/Nickです。そろそろビジネスアーキテクチャーに触れていきたいと思います。

「ビジネスアーキテクチャ(Business Architecture)」や、その知識体系である「BIZBOK® Guide」。 言葉は聞いたことがあっても、「概念が抽象的でわかりにくい」「分厚い英語のガイドを読む気になれない」「約2万円は個人ではちょっと」と感じている方は多いのではないでしょうか。

脱線しますが、私自身、900ページの英語のドキュメント、それもガチガチのセキュリティがかかっている文章を、手間をかけて翻訳しました。非常に読みやすい英語ではありますが、セキュリティによって、コピペがほぼできない、日本語話者には辛い仕事でした。

しかし、その本質は非常にシンプルで、私たちの身近な生活の中にあります。

この連載(全2回)では、誰もが利用したことのある「飲食店」を例に、ビジネスアーキテクチャの基本概念である「Blueprint(設計図)」の基礎的な考え方を解説します。

第1回のテーマは、ビジネスの基礎となる「ビジネス・ケイパビリティ(Business Capability)」です。これは、一言で言えば、「何をやっているの?どんな能力なの?」ということです。

1. 高級フレンチも牛丼屋も「やっていること」は同じ

まず、世の中にある飲食店を想像してみてください。 フルサービスの高級フレンチレストランと、駅前にある立ち食いそば屋。あるいは、カレーチェーン、ハンバーガーチェーンと、路地裏の老舗の寿司屋。

これらは、客単価も雰囲気も全く異なるビジネスに見えます。確かにビジネスモデルでは全く別の顧客を対象としています。しかし、「機能(What we do)」という視点で分解してみると、驚くほど共通していることに気づきます。

ユーザー(客)から見た共通項

私たちがお客としてお店に入ったとき、体験する流れは概ね同じです(黙って座って、出されるものを食え、という特殊ケースを除く)。

  1. 注文する(食べたいものを選ぶ)
  2. 提供される(料理を受け取る)
  3. 食事を楽しむ
  4. 会計する(代金を支払う)

お店の裏側にある共通項

では、これを提供するために、お店側は何を行っているでしょうか?

  • どんな料理を出すか決める(メニュー開発)
  • 材料を市場や業者から買う(食材調達)
  • 調理する・盛り付ける(仕込み〜実施)
  • お店を掃除する・設備を維持する(店舗清掃)
  • 売上を計算する(計数管理)

これらは、フレンチだろうと寿司屋だろうとカレー屋であろうとラーメン屋であろうと、あるいはタピオカ屋であろうと、商売として成り立たせるために必ず持っていなければならない「機能」です。

「うちはカレー屋だから『調理する能力』はあるけれど、『会計する能力』はありません」ということは、あり得ないのです。

2. BIZBOKの用語:Business Capability(ビジネス・ケイパビリティ)

この「ビジネスが何を行っているか」という機能の集合体を、ビジネスアーキテクチャの世界では「ビジネス・ケイパビリティ(Business Capability)」と呼びます。

これはBIZBOKにおいて最も基本的、かつ重要な概念です。

Definition (定義): What the business does. (ビジネスが「何をするか」)

Characteristics (特徴): Stable, Ubiquitous, Implementation Agnostic. (安定的であり、普遍的であり、実装手段に依存しない)

少し難しく聞こえるかもしれませんが、要点はこうです。 「組織図が変わったり、システムが変わったりしても、そう簡単には変わらない『ビジネスの部品』」のことです。

例えば、「注文を受ける」というケイパビリティ(能力)を考えてみましょう。

  • 昔:店員さんが手書きの伝票で注文を受けていた。
  • 今:タブレットや券売機で注文を受けている。

この変化は「How(どうやるか)」が変わっただけで、「注文管理(Order Management)」という「What(何をするか)」のケイパビリティ自体は、お店から無くなっていません。このように、ビジネスの骨格として安定して存在するのがケイパビリティの特徴です。逆に、タブレットや券売機は、他の何かで置き換えることも可能です。Howは交換可能な衣装のようなものです。

3. 飲食店の「ケイパビリティ・マップ」を見てみよう

ビジネスアーキテクチャでは、これらの能力を洗い出し、階層的に整理して「ビジネス・ケイパビリティ・マップ(Business Capability Map)」を作成します。

飲食店を例にマップを作ると、以下のようになります。英語のBIZBOK標準用語と対比しながら見てみましょう。

Strategic Domain(戦略領域)

お店の方向性を決める頭脳部分です。

  • Product Portfolio Management(商品ポートフォリオ管理)
    • Menu Planning(メニュー計画):季節限定メニューや定番商品の構成を考える能力。

Core Domain(コア領域)

お客様に直接価値を届ける、お店の心臓部です。

  • Customer Relationship Management(顧客関係管理)
    • Reservation Mgmt(予約管理):席を確保し、顧客情報を管理する能力。
  • Order Management(注文管理)
    • Order Capture(注文受付):オーダーを正確に聞き取る能力。
  • Food Preparation Management(調理管理)
    • Cooking Execution(調理実施):実際に火を使い、料理を作る能力。
  • Service Delivery Management(サービス提供管理)
    • Table Service(配膳・接客):料理を運び、もてなす能力。
    • Payment Processing(会計処理):代金を受け取る能力。

Supporting Domain(支援領域)

お店の運営を裏で支える足腰部分です。

  • Supply Chain Management(サプライチェーン管理)
    • Procurement(調達):新鮮な食材を仕入れる能力。
  • Facility Management(施設管理)
    • Cleaning & Maintenance(清掃・保守):清潔な空間を維持する能力。

4. 第1回のまとめ:部品は同じなのに、なぜ店によって違うのか?

今回作成した「ケイパビリティ・マップ」は、いわばビジネスの「部品一覧図」です。

ここまでの話で重要なのは、「吉野家もフレンチも、持っている『部品(ケイパビリティ)』の種類自体は、ほとんど同じである」ということです。

どちらも「食材調達」をし、「調理」をし、「接客」をし、「清掃」をしています。

では、なぜ私たちはその2つのお店を「全く違う店」だと感じるのでしょうか? 単に売っているものが牛丼かステーキか、という違いだけではありません。

それは、「誰に、どんな『価値(Value)』を届けるか」という設計思想が根本的に異なり、それによって「どの部品(ケイパビリティ)を、どう使いこなしているか」が違うからです。

  • ファストフード店は、「調理」能力をどう使っているのか?
  • 高級店は、「接客」能力をどう使っているのか?

次回(第2回)は、この部品を使って独自のビジネスを組み上げるための設計図、「バリュー・ストリーム(Value Stream)」について解説します。

(第2回へ続く)

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