Nick/野村です。PMPを目指す皆様、勉強は進んでいますか?
さて。「PMBOK®ガイド 第8版」が出版されたというニュースに、心拍数が上がっていないでしょうか?
「第7版(や第6版の内容)で勉強していた時間はムダになる?」
「試験問題がガラッと変わるなら、今は勉強を止めたほうがいい?」
そんな不安を抱えている方に、結論をお伝えします。
「安心してください。PMP®試験は、明日から急には変わりません。」
なぜなら、現在のPMP®試験は、昔のように「PMBOK®ガイドの理解度を問う試験」とは、明確に一線を画しているからです。
その根拠を、PMIの公式文書である「ECO(Exam Content Outline)」に記された決定的な一文と、「過去の歴史的ファクト」から紐解いていきましょう。
ECOが明言「我々はPMBOKガイドに縛られずに試験を作った」
これが最大の理由であり、今回の記事で最もお伝えしたいポイントです。
多くの受験生が「PMP試験=PMBOKガイドのテスト」と誤解していますが、現在の試験設計図である「ECO(Exam Content Outline)」の冒頭には、その誤解を解くための非常に重要な記述があります。
実際のECO(2021年1月版)の記述を引用します。試験作成の裏側で何が起きていたのか、PMIは正直に明かしています。
Finally, there are noticeable differences between this updated PMP Examination Content Outline and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide). While there are some commonalities, it is important to note that the volunteer taskforce involved in the GPA study described previously were not bound by the PMBOK® Guide. The taskforce members were charged with outlining critical job tasks of individuals who lead and direct projects based on their experience and pertinent resources.
(訳:最後に、この更新されたPMP試験内容の概要(ECO)とPMBOK®ガイドの間には、顕著な違いがあります。いくつかの共通点はありますが、先に述べたGPA(世界規模の実務分析)調査に関与したボランティアのタスクフォースは、PMBOK®ガイドに縛られていなかったことに留意することが重要です。タスクフォースのメンバーは、自分たちの経験や適切なリソースに基づいて、プロジェクトを主導・指揮する個人の重要な業務タスクを概説する責務を負っていました。)[Source: PMP® Examination Content Outline – January 2021]
PMIはここで、「were not bound by the PMBOK® Guide(ガイドに縛られなかった)」と明言しています。
つまり、試験範囲を決めるタスクフォースは、PMBOKガイドという本をなぞったのではなく、「現場のPMの経験」と「実務の実態」をベースに試験範囲(ECO)を作り上げたのです。
だからこそ、PMBOKガイドが第8版に改定されたからといって、ECOという「実務の定義書」が変わらない限り、試験の根幹は揺らぎません。
【深堀り】歴史が証明する「ガイドと試験のズレ」
「でも、ガイドが変われば、いずれECOも変わるんでしょ?」
そう思う方もいるでしょう。ここで、少しマニアックですが重要な「PMP試験の歴史」を振り返ってみます。
その昔、ECOは「RDS」や「Specification」だった
試験の基準となるドキュメントは、時代とともに進化してきました。
- RDS (Role Delineation Study)
かつてはこう呼ばれていました。「職務分析調査」と訳され、世界中のPMへのアンケート結果を元に「現場の役割(ロール)」を定義したものです。(※引用文中のGPA studyは、このRDSの現代版にあたります) - PMP Examination Specification
2000年代などは、RDSの結果をまとめた「試験仕様書」が存在していました。 - Exam Content Outline (ECO)
そして現在、より実務に即したECOへと形を変えました。
名称は変われど、一貫しているのは「特定の書籍(PMBOK)ではなく、現場の実務(ロール)に合わせて試験を作る」という思想です。
「同時更新」は過去22年でたった一度だけ
さらに、歴史的なデータが皆さんの不安を打ち消してくれます。
「PMBOKガイドの改版と、試験(ECO/RDS)の改定は、タイミングがズレるのが普通」なのです。
私がPMPを取得した2003年以降、ガイドの出版と試験の更新がほぼ同時に行われたケースは、たったの一度(例外中の例外)しかありません。それ以外のすべての改定において、両者のタイミングは意図的に、あるいは構造的にズレていました。
「ガイドの第8版が出た」というニュースと、「明日から試験が変わる」というパニックを直結させるのは、過去の歴史的ファクトから見ても正しくありません。
【現状分析】ただし「VUCAの時代」油断は禁物
ここまで「仕組み」と「歴史」の話をしてきましたが、私たちは今、変化の激しいVUCAの時代に生きています。COVID-19による混乱を経て、PMIもアジャイル対応やデジタル化を加速させています。
また、現行ECO(2021年版)の適用から数年が経過しており、「次のECO改定」が近づいている可能性は十分にあります。
しかし、ここで冷静になりましょう。
「変化が近い」ことと、「乱暴な変更が行われる」ことは別問題です。
仮に、近い将来新しいECOが発表されたとしても、以下のようなスケジュールは物理的に考えにくいでしょう。
- 今月: ガイド第8版が出た
- 来月: 新ECOが発表される
- 再来月: いきなり新試験スタート
世界中の教育パートナー(ATP)への周知、翻訳、教材開発を考えれば、ある程度の「周知期間(通常は半年程度)」が設けられるはずです。
これは直近のCAPMの流れからも言えます。ガイド7版リリース21年8月→ECO改訂23年初頭→実際の試験の改訂23年7月、でした。まあ、いくらかは早くなるかもしれませんが、そんなに極端な変化があるとも思えません。
まとめ:ゴールを見失わずに走り抜けよう
新しいバージョンの本が出ると不安になるのは当然です。
しかし、ECOに書かれた一文(The taskforce… were not bound by the PMBOK® Guide)を思い出してください。
- 今の学習計画を維持する:現在の教材は現行ECOに対応しています。
- 公式アナウンスだけを信じる:PMIからの「ECO変更」の告知だけをウォッチしましょう。
- 焦ったり慌てたりしない:むやみに情報をしらべまくる必要も、問題集を買い漁る必要も、ありません。
「第8版が出たから勉強を止める(様子を見る)」のが、受験生にとって一番のリスクです。試験が変わるその日まで、現行のECOが唯一の「正解」です。迷わず、今のテキストを開いて、合格へのプロジェクトを進めてください。



