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PMP試験対策:状況適応型(アジャイル)の導入【PMP試験対策&事業開発メールマガジン520号】

さんこんにちは。

 野村です。今日は東京から330kmほど離れた場所に出張しています。前号では事業開発の話でした。経営側の話でした。今回は、逆サイド、プロジェクトマネジメント側、現場側の話をしましょう。状況適応型(アジャイル)の導入について、です。未来予測型(ウォーターフォール)にも少々触れます。
 前号の話を、現場側から捉え直した話となっています。
 また、前号でもお伝えしましたが、既存受講生限定、無料PMBOKガイド7版勉強会の案内が末尾にありますので最後まで読んで頂けると幸いです。今週と来週の金曜夜に開催します。
 今回は、前回に引き続き、思うところがありすぎて、濃い話になってしまいましたが、お付き合いください。

●今回のまとめ

  • 未来予測型も状況適応型も昔からある
  • 組織の一部(技術)だけでなく全体に適応する
  • 状況に応じて型を選択する
  • 状況適合型のトレーニングを、状況適応型の実践で提供

●前提となる組織

 前号では、「会社設立後30年以上が経過したほぼ事業開発を行っていない組織」としていました。この設定を今回も使いたいと思います。

●「アジャイル(以下、状況適応型)したい」

 前回同様の設定ですので、設立から30年、それなりにプロジェクトマネジメントも行われてきました。多くの組織は、これまで、ウォーターフォール(未来予測型)で仕事をしてきました。ウォーターフォールは、ソフトウエア業界固有の呼び方です。ソフトウエアのウォーターフォールの原点はこちらの論文です(実際、この論文を読むと、現代のウォーターフォールとは違うぞ、と、感じるかも知れませんが、それは今回の話のメインではないので省略します)。
 ウォーターフォールは、一般化すると、未来予測型と呼ばれます。ステップと、役割を明確に分けた仕事の方法です。将来を予測可能な、大規模な仕事に向いています。全体を、設計、製造などのステップに分割し、それぞれ専門家を動員して、大規模な仕事を完成させていきます。私が所属していた建設業(土木)の大きな枠組みも、ある意味未来予測型と言えるでしょう(設計と施工を完全分割しています)。土木の世界ではかなり以前からこの方法だったと思います。

 それに対し、状況適応型(ソフトウエア業界ではアジャイルと呼ばれる)では、小さな仕事を、小さなチームで、反復によって完成させていきます。これは、予測が困難な状況に適しています。詳細な設計ができないような時に最適です。1990年代からじわじわと目立つようになってきました。しかし、このような仕事の仕方は、最近始まったものではなく、やはりかなり以前から行われていました。例えば、大工が家を建てる時、全体を大まかに作ってから、細部を施主と話し合いながら、詰めていきます。もちろん、基礎を打つ時には全体のおおまかな構造は決定されている必要がありますが、細部はあとからじっくり決めることもできます。コストをケチらなければ、細部のやりなおしも可能でしょう。最初から決まっていない領域を、小規模に反復しながら施主が決めていくのは、状況適応型と言えます(大工の仕事全体はハイブリッド型と言えますね)。
 また、「優先順位を付ける」「ムダを排除する」「優先順位の低いモノは作らないかもしれない」「スモールバッチシステム」「MVP」など、トヨタ生産方式の流れを汲んだ要素も入っています。MVPについては、次号以降で触れていきたいと思います。

●いきなり状況適応型技術チームが作られる

 さて、ここから、前号の話を絡めていきます。「状況適応型(アジャイル)導入」となると、まず、状況適応型チームが作られます。これは事業開発の組織を作ることと似ています。役員は、組織を作るのが好きなのです(酷い言い方をすれば、それしか手を出せない)。
 そしてそのチームは、多くの場合、「技術系のチーム」なのです。何が問題かというと、組織の機能の一部だけが状況適応型になっても、意味が無いのです。技術系のチームだけ変えても、うまく動く事ができないのです。
 例えば、状況適応型技術チームができたとします。そのチームで新サービスを作ってみよう、となります。しかし、顧客側との接点を状況適応型で作らなければならないのです。プライス、納品方法、支払方法、販路、カスタマーリレーション、こうしたものは、営業系の企画の人も、状況適応型で動かなければならないのです。もちろん、顧客にプロトタイピングを提示し、フィードバックを貰うにも、技術系の人だけでは難しいのです。営業と技術が一緒に動かなければなりません。さらに、全体の統括も、誰かがやらなければなりません(大抵は企画部門)。状況適応型の導入は、組織の一部ではなく、全体に対し行わないと、力は発揮できません
 一部だけ、というのは、そもそも、社内に対立を作ってしまいます。「あまり稼いでないアジャイルの連中」「昔ながらのウォーターフォールな人達」というように、無意味な対立を作る事になってしまいます。
 会社の一部だけ、状況適応型にする、というのが、うまくいかないことがわかりましたが、問題はまだまだあります。

●なぜ状況適応型?

 そもそも、私の会社は、何故、状況適応型を導入するのでしょうか?周りがやっているから、でしょうか。確かに、「あの会社もやっているらしいから」というのは動機にはなるとは思いますが、それは消極的です。
 状況適応型を導入する理由は、「状況適応型に適した仕事が多いから」なのです。1980年代の頃のような、経済が右肩上がりで、なんでも売れる、大きい仕事を取るのが正義、というような時代には、未来予測型で良かったのです。しかし、1990年代後半からの無成長時代と、ここ最近の、コロコロ状況が変わるような時代には、未来予測型では適応できなくなっているのです。
 この2つの方法論は、状況に対し、適したものを選択するのが正解です。顧客の要求が近い将来変化していく、そもそも要求を特定することが困難、働き方もどんどん変わっていく、そういう状況では、状況適応型が正解で、未来予測型だと大変なことになってしまうのです。

 環境と、選択すべき型は、シンプルに書くとこうなります。
  • 将来が予測出来る環境:線形、連続、定量=未来予測型
  • 将来が予測出来ない環境:非線形、不連続、定性=状況適応型
これを、「全て状況適応型であるべきだ」「これからは状況適応型だ」というような形で考えると、おそらく、残念な結果となります。この2つは対立している、という考え方は小さくなっています。それぞれのメリットデメリットみたいなことを書いているサイトは大分減りました。しかし、漠然とした不安・拒否感という形で、今もまだ、対立の構図が少々残っていると思います。

●そもそも不安がある 

 設立後30年経過したような組織では、これまで、しっかりと、未来予測型で成長してきた可能性があります。そういう組織では、未来予測型の「考え方」が「安心」なのです。そこに安定性を見出してしまいます。既存の価値観ですね。この既存の価値観は、足枷になります。だって、その世界からしたら、状況適応型の「VUCAを喜ぶ・楽しむ、変更・リスクは、チャンス!」なんて、恐怖なのです。これが拒否感の原因かもしれません(この10年で、大分小さくなってきていますが)。
 これから状況適応型を導入する場合、最初に何をすべきか。まず。、社長ははっきりと、「これまでの未来予測型の仕事を効率化しつつ、状況適応型の仕事の導入で、不確実性をチャンスにしていこう」と宣言すべきなのです。前号でも書きましたが、「じゃあ、やってみよう」をどう引き出すか?が、大きなポイントなのです。

●状況適応型の社内トレーニングを状況適応型の実践で提供する

 次に、トレーニングです。技術系だけではなく、営業系、品質系、企画系、経理系など、様々な人が、一斉にトレーニングに参加すべきです。最初は外部から教わることもあると思いますが、実際にはそれほど難しいものではないので、すぐに社内トレーニングを行うことができると思います。
 
 ここで一つ。ちょっとややこしい話を。

 そこで、状況適応型のトレーニングを、状況適応型で提供してみます。これは、私が組織を支援するときに実践している方法です。「状況適応型の社内トレーニング」を、「状況適応型を実践し提供してみる」のです。顧客から頻繁にフィードバックを受けながら、プロトタイピングで小さなコースを作り、それを提供し、またフィードバックを受ける、色々修正する、を、繰り返していきます。実施方法も、教える内容も、状況適応型です。これなら、自ら経験しながら、提供し、同士を増やすことができます。なにしろ、「実践している人の言葉なら信頼できる」からなのです。

 と、私の場合は、こんな形で、状況適応型(アジャイル)の導入を支援しています。

 2号連続、濃い目な話となりました。次号以降、少し落ち着かせていきたいと思います。

編集後記

 前号でもお知らせしましたが、既存受講生向けに、PMBOKガイド第七版でダイアローグするイベントを、今週金曜と来週金曜の夜、開催します。無料です。野村のコースを受講された方限定となります。下記問い合わせからご連絡頂くか、こちらからお申し込みください!
 本メールに対する、雑談、感想、質問など、幅広くお待ちしています。本メールに返信するか、こちらから、メッセージをお送りください。宜しくお願い致します。
 それでは次号で会いましょう!
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