Signature2color-280

事業開発:社長が誤りを認める【PMP試験対策&事業開発メールマガジン519号】

さんこんにちは。

 野村です。少しずつ、事業開発の話もしていきたいと思います。これまで、事業開発の話はあまりしませんでした。実は、事業開発支援に、かれこれ20年以上関わっています。
 PMPを目指す方にとっては、「皆さんが接しているプロジェクト」の「ある側面の話」としてお読み下さい。やりたいことは、同じ、ただ、見え方が違うという感じかと思います。

●今回のまとめ

  • いきなり組織を作るのはNG
  • 自分達が売れると思って作ったものは、大抵売れない
  • これまでの方法では通用しないことに気付く
  • 社長自らが内省し、自らの言葉で説明する

●前提となる組織

 これからお話しする事業開発の話は、いわゆる、スタートアップの話ではありません。会社設立後30年以上が経過したほぼ事業開発を行っていない組織の話です。スタートアップ、特に、設立して5年くらいの会社には当てはまりません。

●「事業開発したい」

 設立から30年以上経過した組織は、それなりの規模で、それなりに仕事が回せています。組織が30年も行き続けたということは、「顧客」と「顧客のための製品やサービス」が既にある、ということです。ある程度、安定しています。規定・基準が整備され、定期的に採用が行われているはずです。もしかすると、そろそろ、創業者は退任が見えてきているかもしれません。
 あるいは、サプライチェーンの一部としてがっつり大企業に組み込まれていたり、大企業の子会社ということもあるでしょう。定期的に役員が親会社から降りてくるような状況も考えられます。
 いずれにしても、30年、40年と時間が経過すると、そこに、「安定感」が生まれてきます。これはとても良いことです。安定感があれば、雇用もしやすいです。こうした会社では、事業開発を「やらない方が儲かる」と考えるようになっています。というのは、新しい事にはリスクがあります。そこに手を出すと、失敗します。バブルの頃、不動産に手を出して失敗(今では考えられないことですが、当時は、殆どの会社が、土地に手をだしていました)のような記憶があるのかもしれません。
 しかし、どこかで、事業開発(新規事業の開発)が必要だ、ということに気付きます。それは従業員の中からかもしれませんし、あるいは、親会社との関係からかもしれません。社長が言い出すこともあるでしょう。これまでの安定した状態が将来損なわれることが見えてくると、事業開発を行いたい、と、感じます。事業開発は、将来の変化や衰退への備えとして、必要となります。
 ところが、事業開発を行おうとしても、先ほどの「安定感」が「足枷」になるのです。

●よくある最初の失敗

 (新規)事業開発を組織に導入しよう、と、考えた場合、どこから手を付けるべきでしょうか?よくある最初の躓きは、「組織を作ってしまうこと」です。これはある程度仕方が無いことかもしれないのです。「社内の優秀な奴を集めれば、事業開発はできるだろう」と、役員達は考えます。しかし・・・30年以上もの間、事業開発を避けてきた会社では、「事業開発ができる優秀な人」は、居ません。仮に居たとしても、実際には行っていませんし、評価したこともありません。その結果、組織を作っても、「(既存事業では)優秀な人と変わり者の集団」ができるだけで、事業開発ができる組織ではない、のです。下手をすると、役員自身も、事業開発を行った事が無いかもしれません。あるいは、あったとしても、創業時に一度だけ、かもしれませんね。
 こうした組織を作ったとして、行うのは、実際の事業開発、プロセスの構築、現状の改善提案、規定基準の整備、トレーニングの整備など、です。実際に事業開発しながら、組織開発を行っていこうと、考えます。ところが、うまくいかないのです。なにしろ、「事業開発経験者」ではない「これまで優秀だった人」を集めてしまっています。これはある意味残酷です。これまでのやり方で事業開発を実行すること自体が無理なのです。彼ら自身に、自らを修正することを求めることになるのです。
 そうすると、私が呼ばれます。うまくいかない理由は様々ですが、「既存事業の価値観を保持したまま、新規事業を考えるからうまくいかない」のです。例えば、年度の売上と予算と利益を管理していたとして、それを新規事業に適応することは、無意味です。あるいは、プロセスを細かく定義して、計画的に分業する仕組みがあったとして、それを新規事業に適応することもできません。こうした「これまでとは違う」ということを、入社して10年経過して、自社の価値観がしみついた人に、自分で探させて修正させることはかなり辛い事です。「なんかヤバい部署に来ちゃった」と考える人も多いのです。
 あるいは、これまでうまくいっていたはずの「技術がいいものを作って、と営業が、売る」という発想も、通用しません。頑張って、1年かけて、良いと思うものを、XXXX万円かけて作ったけど、全く売れない、そんなことも起こるのです。真面目な人だと、半年くらい出社出来ないようなショックを受けることになります。大切なことは、「これまでとは、様々な面で、全く違う」ということなのです。

●最初に行うべきことはなにか?

 ここまでの話からすると、つまり、「現状のやり方では、全く通用しない」ということです。例えば、これまで特定領域のソフトウエアの受託開発のみを未来予測型(WF)で行ってきた会社が、突然、福祉事業向けのクラウドサービスを作ろうとしても、「作る事はできた」程度で、止まってしまいます。きちんと要件定義をして、十分な工数をかけて、良いのものは「従来の方法で作れる」かもしれません。自分達が考える、良いサービスはできるかもしれません。でも、売れません。その状況で、従来の予算と売上という考え方だと、1年後に、「いいわけ」を考えることになってしまいます。「自分達が考える良いサービス」は、大抵売れないのです。
 最初に行うべきことは、「マインドを変える」ということです。それは、「経営トップが、誤りを認める」ことです。それが、最大の救いになります。「新規事業をやろう」だけでは、30年間の安定が、足枷になります。その足枷は、事業開発においては、取り去って良い、というメッセージを出すことが大切です。
 ここでポイントは、「今までのやり方の多くが間違っていた」は、現状を否定してしまうので、モチベーションが下がります。そうではなく、「これまで、事業開発に取り組んでこなかったので、その機能が無い。それが間違っていた。事業開発のために新たなやり方を作っていこう」が、正しいメッセージです。

●社長が自分の言葉で説明する

 私が事業開発に入るときに、「足枷」を探します。その組織で事業開発を止めてしまう価値観、風土、プロセス、規定基準などを確認します。この「足枷」はこれまでの事業が作り出した「安定感」が生み出しています。
 まずは、うまくいかない点の確認、です。それを社長と確認するためのダイアローグを継続します。これが理想的です。そして、私の言葉ではなく、社長の言葉で、他の役員や管理職に伝わる言葉で伝えてきます。このときに、社長の内省が表出するのがベストです。これが、タイトルにある「社長が誤りを認める」ということです。
 社長が内省を通じた自分の言葉で、「ここを変えていきたい」ときちんと発言すれば、「なるほど、じゃあ・・・・」と、考え始めますし、提案することを怖れなくなります。「組織は作った」「さぁ、新規事業を作れ」と号令をかけるだけでは、事業開発は始まりません。また、ツールの使い方トレーニングみたいなものを受講しても、やはり始まらないのです。必要な事は、「社長がああ言うなら、やってみよう」と思える状況を作り出す事です。

●失敗のしたケース

 ところで、この、社長や役員とのダイアローグをせず、現場レベルだけで事業開発を行うと、どうなるか。私の場合は、出入り禁止になります。というのは、私が作る資料の端々に、「役員からすると、とんでもないこと」がさらっと書かれているからなのです(WBS作成禁止、リリース日の設定禁止、多能工として働く、など)。彼らが長い間大切にしてきた価値観と、そこから生み出された安定感を、ばっさり切り捨てているように見えてしまうのです。結果、私は出入り禁止にされ、新規事業チームは、その役員の「(間違った)想い」によって、既存のルールを適用され、身動きが取れないようにされてしまいます。具体的には「売上目標の設定」などの形で降りかかってきます。これはつまり、既存事業に戻ることを意味しています(新規事業では、売上など、遠い先の話です。単年度で単一事業で大きな売上など、ほぼ不可能です。結果的に「今まで通りの安定した仕事」に戻ってしまいます)。



編集後記

 既存受講生向けに、PMBOKガイド第七版でダイアローグするイベントを、今週と来週、開催します。無料です。野村のコースを受講された方限定となります。下記問い合わせからご連絡頂くか、こちらからお申し込みください!
 本メールに対する、雑談、感想、質問など、幅広くお待ちしています。本メールに返信するか、こちらから、メッセージをお送りください。宜しくお願い致します。
 それでは次号で会いましょう!
facebook twitter 
Email Marketing Powered by MailPoet